X day

アルタイルタワー最上階の司令室から、コズミックキューブが消失した。
この組織で一番失くしちゃまずい物のまさかの消失が判明した瞬間から、幹部級から下級クラスの戦闘員と関係なくほぼ全員が騒然となった。侵入者か、内部の犯行か——いずれにせよ、総員での必死の捜索である。
そんな中レグルスもまた、ある場所へ向かって急いでいた。
「レグルス様!どちらへ!?」
すれ違った指揮官クラスの戦闘員が思わず声をかけた。
「…犯人に心当たりがある。今からそいつのところへ向かう」
「まさか…内部の犯行ですか…?」
「残念ながらな…」
レグルスはそう答え、俯きながら額を押さえた。苦悩しているその様子に、戦闘員は「ひょっとして何者かがアルタイル様に謀反を企てたのでは…」と最悪の結末を想像した。
「わ、私も一緒に行かせていただけませんか…!?」
「心配するな。オレ一人で十分だ」
「しかし…!!」
「お前は犯人がアイツだと知らない方がいい」
そう言ってレグルスは足早に去って行った。
一体…一体誰がコズミックキューブを持ち出したというんだ…——残された戦闘員は、一人その場で項垂れた。

ところ変わってアルタイルタワー内の一室にて。
正方形に切られたガラスのようなプレート6枚を前に、一人の男が腕組みをしながら「うぅ〜ん…」と何やら唸っていた。
「なんや…ただの箱かいなー」
つまらんわ〜と言わんばかりに男は溜め息を吐く。6枚のうち1枚を手に取り、軽くコツコツと拳をぶつけた。
「しかも、めっちゃ強度低いでぇ〜…ガラス並やんか」
はあ〜…と、手に取っていた1枚を戻し、再び腕を組んだ。
「これ…絶対誰もやらへんと思うけど、実はパンチ数発あてたら壊れるやつちゃうんか??」
ブツブツ独り言を言う男の表情は不服そうだった。
「うーん…まあ、どうでもええわ。気が済んだからバレへんうちに戻しといたろ〜」
そして、男がそう言った瞬間。突然背後の部屋のドアが開き——。
「アルタイル様、やっぱりハウトです。分解してました」
ヘッドセットのマイク部分に指を添えながら、よどみなく報告するレグルスの姿を、コズミックキューブ持ち出し犯人=ハウトは見ることとなった。

「ハウト…大丈夫?」
「ゲフッ…え?なんやカペラ、心配してくれるん?うわ〜…めっちゃ嬉しいわ〜。ちょっとやらかして良かったかも〜なんて…」
「まだ反省が足りてねぇな」
「報告しましょう、レグルス」
「あー!!!待て待て待てえー!!悪かったって!!ホンマすまんかった!!」

レグルスの報告から、流れるようにアルタイルの元へとしょっぴかれ、お叱りというか拷問というか、まあ雷を落とされ、司令室のドアの外へゴミのように捨てられたハウト…に最初に声をかけたのはカペラだった。
「まあ…思ったよりも元気みたいだし、良かったわ…」——そう言ってカペラは、ホッとしたように溜め息を吐く。
「フッ…ワイは不死身やで?何度やられても、しつこく立ち上がるで…?」
「こりねぇな…で、なんで分解しやがったんだコズミックキューブを」
レグルスが訊ねた。
「“なんで”も何も、仕組みがわからへんもんは、まず分解やろ!?」
「お前は家のラジオ分解するガキか」
「そうそう!ワイも最初はラジオ分解して、そこからメカの魅力と改造にのめり込んでいってなあ…」
「結局お前の興味本位じゃねぇか」
「いや、それもあるけど一番はコズミックキューブの仕組み分析するためやで!?意味もなくバラバラにしたんちゃうで!?」
「それで何かわかったのか?」
「ただの箱やったわ。そして組み立てて戻したらフツーに力も元戻ったわ。なんでかはよくわからへんな!」
「何一つ意味もないままにバラバラにしただけじゃねーか」
「うっさいわ!!もっとおもろいかと思たんに、ただの箱でおもんなかった上に、上司にボコボコにされるし散々だったわー…」
「やっぱり興味本位かよ…」
レグルスは俯きながら額を押さえた。ホントにコイツのやってることには、いちいち頭痛がする。

「あ。そや、レグ。自分、アル様に呼ばれとったやろ?ワイのお仕置きも済んだとこやし、今行ったらええんちゃう?」
ハウトがそう言って、自分がさっきまでいた司令室のドアの向こうを示す。
「そうだな、わかった……反省しとけよ、ハウト」
「おう!もうしないから安心せーい!」
ホントかよ…そう呟きながら、レグルスは司令室のドアを開け、アルタイルの元へと去って行った。

「ホントにもうしないんでしょうね…?」
「おう。ワイに二言はないで、カペラ!」
「…アブソリュート分解した時も、もうしないって言ってなかったかしら?」
「あ〜…えっと、アブソリュート“は”もう分解せぇへんで?」
「ハウト……」
全力でしらばっくれようとするハウトを、カペラは冷ややかな目でじっと見つめた。
「いや、すんませんでした…その、カペラ…心配かけてごめんな?」
ハウトが顔色を変え、心底申し訳なさそうにそう言うので、カペラもそれ以上は責められなかった。呆れたように溜め息を吐きながら、「本当に貴方は自由よね」と呟く。
「ええっと…確かに今回やらかしたんは度を超えとったし、本気でカペラが嫌な思いしたんなら……」
「別にそういうわけじゃなくてよ。寧ろ、貴方のそういう自由なところは嫌いじゃないから」
「…そっか」
そう言ってハウトは、カペラに笑いかけた。
「………」
——ハウトの笑顔をじっと見つめたまま、カペラは少しの間だけ黙り込んだ。そして、意を決したかのように口を開く。
「ハウト…この前貴方が、私に言ってくれたことだけど……」

「アルタイル様、お呼びですか?」
「おや。良いタイミングで来てくれたね、レグルス。ちょうど改めて呼び出そうと思っていたところだよ」
さっきまでハウトに拷問まがいの教育的指導をしていたとは思えない程、アルタイルはいつも通りフレンドリーだった。傍らでは、一度分解された事実などないかのようにコズミックキューブがたたずんでいる。
「いやあ、それはそうとコズミックキューブを分解するとはハウトもやってくれるねぇ…しかし、そこまでしても使いこなす方法がわからないのは困りものだな。あの時シリウスくんに訊いておくべきだったかね?」
「言うと思いますか…あの状況で」
言いながらレグルスは眉をひそめた。
「まあ私が訊いたところで言うわけがないとは思うが…意外と彼はヒトに物を教えるのが上手い気がするぞ☆」
「何を根拠にですか…」
上司の言動に思わずツッコミを入れる。
「さっさと本題に入りませんか、アルタイル様」
「ふむ…そうだな。あまりフザけている場合でもないのだよ、レグルス」
「と、言いますと?」
「つい先ほど、グリーンガーデンに侵入者を確認したとの報告があったことは知っているね?」
「ええ」
レグルスは頷く。
「現地の戦闘員が対応に当たっているとのことでしたが」
「ああ…と言っても大した相手でもなさそうなのだよ。だって見たまえよ、この現地から送られてきた監視カメラの映像を!」
そう言いながらアルタイルは、件の映像を空中に投影する。
侵入者は二人。一人は見覚えがあった…コズミックキューブを奪われ、今や無力と化しているはずのシリウス。もう一人には見覚えがない…背格好からして、まだ年端もいかない子供のように見えた。
「どうやらこの星に住む一般人の子供のようだ。爆弾を操る力はあるようだが…シリウスくんがその場で戦い方を教えているみたいだし、実戦経験はほぼ皆無だね」
「ザコじゃないですか」
「全く…復讐に来たのかと思えば、シリウスくんもこんな無謀な手を……と、私もつい数分前まではそう思っていたよ」——アルタイルの声色が突然変わった。
「キミの意見だけ訊いておけば十分かと思っていたが…どうやらこの後、マスカー三人衆全員に招集をかけなければならないらしい」
「…どういう意味ですか」
「これが、グリーンガーデンの現在の様子だ」
映像が切り替わる。グリーンガーデン最上部の特徴的なアーチ状の橋だ。
橋の上に立っているのは例の子供。その手には爆弾。そして、ブラックシティに繋がるアンカーを守らせるために配置しているはずの翼を持つモンスター…が、ほぼ全身に致命傷を負いながらも、かろうじて飛んでいる様子だった。
「………!?」
レグルスは目の前の光景にフリーズした。——そして、瞬く間に子供の手によって爆弾が投げ込まれ、爆炎に飲み込まれたモンスターは翼を完全に焼かれ、重力に従い地へと落下していった。
「…戦闘が始まってから3分20秒以内だったね。いやあ、とんでもない逸材を引き当てたよ、シリウスくんは」
「…まぐれですよ、こんなの。実戦の経験もないヤツが短期間でこうなるはずが…」
「まあ確かに…にわかには信じがたいことだが、どうやら警戒はしておいた方が良さそうだよ」
アルタイルがそう言い終えると同時に、ブラックシティ全体が大きく揺れた。4本のアンカーのうちの1本が破壊されたための衝撃だった。
「さて、残るアンカーは3本だ。私の言いたいことはわかるね、レグルス」
少し首を傾けながら、アルタイルはそう言った。

マスカー三人衆は各自指示された場所に配置され、侵入者を迎撃するように命令が下された。
既に侵入者はブルーリゾートへと向かったことが報告されており、誰よりも先に司令室を去ったのはカペラだった。

「大丈夫、カペラは強いで。確実に侵入者どもを討ち取ってくれるはずや」
持ち場へ向かう直前、ハウトは力強くそう言った。
「残念ながらワイらの出る幕は無いやろ」
「だろうな」
レグルスが答える。
やはりアレはまぐれの勝利だったに違いない。実践の経験もないようなヤツに、オレ達が追いつめられるなどということは、まさかあり得ない。

「……実はな。カペラにフラれてしもたんや」
溜め息まじりにハウトがそう言った。
「フラれたというか…今はまだ、答えられへんって。一人の戦士でいたいから、誰かを愛する余裕なんてないんやて。仕方ないよな、アイツの生き方は否定できへん」
「……カペラらしい答えだな」
「だからってワイは諦めへん。いつまでだって待ったるで!」
「お前はお前で、らしい態度だな」
「だって…答えられへんってことは、まだ可能性はあるってことやろ?」
言いながらハウトはにかっと笑う。
「ほな、ワイもレッドマウンテンに戻るわ!念のためスプリガンの整備もしとかなあかんしな!」
「ああ、またなハウト」
司令室を出て行くハウトにそう声をかけた。

この時までは、いつも通りの日だった。
ハウトの無茶な行動も、そこから発展した騒動も、カペラの彼女らしい言動も、アルタイルタワーでの日常だった。

「では行って参ります、アルタイル様」
「ああ。気をつけたまえよ、レグルス」

最後に上司とそう言葉を交わしてレグルスは司令室を出て行った。