My answer
「ヤツは想像以上に強いぞ…オレと戦うまで死ぬなよ」
レグルスはそう言うと、その場に崩れ落ちた。
すぐに助け起こそうと、私は手を伸ばそうとする。しかし、それを阻むように容赦なく、ルキフェルスの声は降ってきた。
「負け犬がよく吠えるッ!…消え失せろッ!!」
私の手は届かなかった。
一瞬で目の前が闇につつまれたように暗くなって…次に見たものは、その闇に飲まれ消されていくレグルスの姿だった。
「ククククッ…お前達は面白い生き物だ。何故そうまでして戦おうとするのだ?我に勝てると思っているのか?」
俯いている私に、ルキフェルスの声だけが上から響いてくる。
「我と戦いたければこれを突破してみせよッ!」
その声と同時に、おびただしい数の敵が私の周りを取り囲む。
「待っているぞ…我を楽しませてくれ」
嘲笑う声を残してルキフェルスは姿を消した。
戦う意味を問われた時、私はこう答えた。
「誰にも負けるな」と言われたから。
もう一度彼と戦う日までは、一度さえ負けられない。そう約束したから。それが、それだけがあの日から私の、戦う意味だった。
二年前、侵略者たちは突然空から現れた。その時、たまたま街から離れていた私の見ている目の前で、故郷はあっという間に焼かれ、家族や友達の消息もわからなくなった。ただ「壊されるのを止めたい」「皆を助けたい」それだけを思っていた私の前に、白い翼を持ったヒトが舞い降りた。
そのヒトは私に力をくれた。侵略者の元へとそのヒトと共に立ち向かい、戦いの中で私は強くなった。
ある時、そのヒトは自分のことを教えてくれた。
自分もかつて同じ侵略者に故郷を奪われ、家族を殺されたと。侵略者を倒し、宇宙に平和をもたらす勇者を探し、君に出会った、と。
「君には迷惑な話かもしれないがね」
そのヒトの言葉に、私は首を横に振りながらこう言った。
「いいえ。シリウスさんの力にもなりたいです」
「……そうか。ありがとう」
そのヒトは——シリウスさんは少し、笑ったように見えた。今となっては、この時の笑顔の真意もよくわからない。内心、私のことを嘲笑っていたのか、それとも本心だったのか。
「壊されるのを止めたい」「皆を助けたい」そう思ったばっかりに、私の気持ちは利用された。そのヒトは容赦なく私のことを裏切った。そのせいで、私のせいで故郷の地を、さらなる危険に晒してしまった。
最初は信じられなくて、きっと何かの間違いだと思って、シリウスさんの後を追って…追った先で私に向けられたのは銃口だった。私にはもう、避けようがない。ついさっきまで、まだ心の何処かで信じていたものが、その瞬間に一気に折れた。力なくしゃがみ込んで目を閉じる。
追いつめられて、全てを諦めようとした私の前に現れたのは——レグルスだった。
「テメェとの勝負は、後だ!まずは、そいつをぶっ倒すぞ!!」
その声で、私は再び立ち上がることが出来た。辛い戦いを乗り越えることが出来た。そして、最後には星を、故郷を救うことが出来た。
私とレグルスは最後にこんな話をした。
「以前、オレたちが4人がかりでさえヤツからはコズミックキューブを奪うのが精一杯だったってぇのに…そいつを倒すとはな……大したヤツだぜ」
「…レグルスがチャンスを作ってくれたおかげだよ。私ひとりじゃ、あそこで終わってたから」
「…お前の強さは、認めてやるよ。もっとも、気に入らねぇのは変わらねぇけどな!」
それからレグルスは、「またいつか会えるかな?」と訊ねる私にこう答えた。
「お前との決着は、いつか必ずつけてやる。それまで、誰にも負けるんじゃねぇぞ」
——誰にも負けない、それが最後にかわした約束だった。それからの私を支える、力となった言葉だった。
*
長い長い戦闘を終えて、私はその場にへたり込んだ。
「大丈夫…?」
ポミュが心配そうに訊ねてくる。
大丈夫じゃなかった。涙は後から後から溢れ出て来た。
「いつかまた、レグルスに会えるから…その時、自分が弱くなってしまっていたらダメだと思ったから、一度さえ負けられないと、戦い続けることができたんだ」
「………」
「信じていたヒトに騙され利用されていた馬鹿な私を、強いって認めてくれた…助けてくれた…ずっとずっと忘れられなかったんだ」
——大好きだったんだ。今、わかってしまった。
それなのに、私からは助けることが出来なかった。
かつては確かにあった「助けたい」「守りたい」という、とても単純な戦う理由…どうして、今の今まで取り戻せなかったんだろう。あと少しで間に合ったかもしれないのに。
「もう遅いかな、ポミュ…」
「…遅くなんかないミュ。たったさっき、新しい約束したミュ」
ポミュの言葉に、俯いていた私は顔をあげた。
「“死ぬなよ”って、“ヤツを倒せ”って彼はそう言ったミュ。貸してくれた力も無駄にできないミュ!」
——私はしばらく言葉を失くし、そして、頷いた。
「うん…そうだね。そうだったね…わかったよ、ポミュ」
ようやくその場から私は立ち上がる。
涙はまだ止まりそうにないけれど、今はただ進むしかない。
*
結局、私はまた利用されていた。
いいえ、私だけじゃない。七騎士も、ルキフェルスも、みんな魔神に利用されていたんだ。その事実を知った私は、ただ怒りに震えた。
「貴女がまだ、この戦いを必要と思うなら戦いなさい」
女神ミハールは私にそう告げた。
もう約束の相手はいない。失われたものは戻らない。それでも私はこの戦いを、必要ないものなどとは思わなかった。もうあんな思いはしたくないと、封じていた気持ちが今やっと蘇っていた。
「ポミュ。私の戦う意味はね、“皆を助けたい”だったんだ」
「ボクは信じてるミュ!正しいことばかりじゃないけど、皆がんばって生きてるミュ!ボクは今の世界が好きだミュ!」
「わかったよ…止めてみせるよ、聖邪の天使を!」
戦艦の中の、小さな空間で戦っていたはずなのに、私の目には守るべき宇宙が見えていた。とにかく走り続けて、天使の放つ攻撃をギリギリでかわした。こちらの攻撃はなかなか決まらない。それでも、諦めずに戦い続けた。
やがて訪れた、反撃の瞬間。あのヒトに託された闇色のボムを力一杯蹴りつける。
闇は、光を飲み込み、爆炎が天使に直撃する——それが最後の一撃となった。
*
目覚めるのにも似た感覚で、意識はゆっくりと浮上した。
何が起きたのかを一つずつ思い出していく。自分は確か、ルキフェルスの放った暗黒球の中に飲み込まれ、そのまま消されてしまったはずだった。——しかし、何故かその先の記憶もあることに、レグルスは驚いた。
魔神サートゥスが復活したものの彼女が戦いに勝ったこと、女神ミハールが現れて彼女に全てが託されたこと…そして今、自分が見ているものはまさに、聖邪の天使と戦う彼女の姿だった。
そうか…自分の魂は今、聖邪の天使の中に戻り、捕われているのだとレグルスは悟る。新たな世界が生み出されても、セブンエレメンタルナイツだけは転生を許され、何度でも蘇るのだろう——だからこそ、自分は今ここにいると。
「このままアイツが負けたらどうなる?」
ふと、そんな考えがよぎった。
自分は恐らく次の世界にも存在することが出来るだろう…でも、それは彼女のいない世界だ。もう二度と会えなくなる——それでいいのか?
——天使が一瞬の隙を見せた時、レグルスは、その全能の力を内側から押さえ込んだ。
それに応えるように、彼女の仕掛けた爆炎が直撃し、天使にダメージを与える。
もう一度、会いたい。
溢れてきたのはそんな気持ちだった。何故かはわからないが、ただそう思った。