Dark
隕石が衝突し、惑星が一つ消失した。
あり得ない事件だった。ここ一帯の宇宙では、どの惑星も隕石の衝突探知や観測を行うためのレーダーが用意されている。にも関わらず、本当に突然現れて、突然衝突したのだ。
報道によると、事件を引き起こしたのは、とある犯罪者グループ。
その親玉が、どうやら隕石を自在に召喚する能力を持っているらしい。ブラックホールを自在に生み出せる組織もあったくらいだから、特に誰も驚きはしなかった。
面白半分に星を破壊して回る最悪な連中で、次は何処が標的になるかも分からず、人々は恐怖に震えた。
この星の英雄——ボンバーマンと呼ばれる少女が、そんな状況を黙って見ているわけが無かった。
時刻は深夜、場所はいつもの街を見下ろせる丘の上。
しゃがみこんでいるボンバーマンの傍らには、小型の宇宙船が運び込まれていた。犯罪者グループが見つかるか、この星が標的になるか…いずれにせよ何か動きがあった時に備え、いつでも出発できるようにと待機していた。
「ボンバーマン、大丈夫?」
ポミュが心配そうに声を掛ける。
「うん」
頷くものの、ボンバーマンの顔は何処か緊張している。
「もう少しリラックスするミュ。君なら絶対何とかできるミュ!」
「そうだね…ありがとう、ポミュ」
ポミュの励ましに、ボンバーマンは少しだけ笑みを浮かべた。
空を見上げる。
いつもなら美しい夜空だが、冷たく輝く星達を今は何処か恐ろしいと感じる——何しろ、いつ隕石が落ちて来るか分からない状況だ。
「ミュ?あれは何だミュ??」
ポミュがふと、空の一点を指さした。
「どうしたの、隕石…!?」
ボンバーマンが慌ててそちらの方に目をやる。——どうやら違うようだ。隕石にしては小さい。あれはサイズ的に…人影?
空から落ちて来る人影が、近づくにつれて聞こえて来たのは、悲鳴だった。
「きゃあああ……!!」
隕石ではなく、女の子が空から降ってきた。
「うわあああ……!?」
ボンバーマンもその状況に思わず悲鳴をあげた。受け止めようと咄嗟に手を伸ばすも間に合わず——女の子は、見事にポミュの上に落下した。
軟体生物とは言え、痛いものは痛いので「ぐぇ」と声を出すポミュ。そして軟体生物がクッションになったお陰か、女の子は無事だった。
「た、助かったわ…」
「ボクが助かってないミュ!!」
ほっと息をつく女の子に、鋭くツッコミを入れるポミュ。
ボンバーマンはあわあわと二人に声を掛ける。
「ふ、二人とも大丈夫!?」
「大丈夫なわけ無いミュー!!」
「そ、そうだよね…!」
慌てて女の子を抱き上げると、ポミュの上から退かせた。
「死ぬかと思ったミュ…」
「えっと君は…?怪我とかしてない?」
ボンバーマンは女の子に訊ねた。
——女の子は答えないまま、呆然とボンバーマンの姿を見つめ、そしてポツリと呟いた。
「ママ……」
「え?」
ボンバーマンが首を傾げる。
女の子は慌てて「いえ、ごめんなさい!人違いだったわ!!」と叫んだ。
「そ、そっか…」
とりあえず怪我はしていないようなので、ボンバーマンは安堵し、そしてさらに訊ねた。
「私はボンバーマン、そっちの子はポミュだよ。君の名前は?」
「私は…」
女の子は名乗りかけて——そして、ハッとした表情を浮かべると、
「名乗る程の者ではないわ!いずれ最強の名を手にする戦士とでも言っておくわ!!」
と、誤摩化すように言った。
ボンバーマンは、その答えに目を丸くした後、
「……ふふふ」
と微笑んだ。
「君と同じことを言ってた人を知ってるよ」
そう言ったボンバーマンの脳裏には、一人のライバルの姿が浮かんでいた。
「じゃあ、ソイツも私の敵よ!」
「そうだね、ライバルだね…」
何だか、可愛い子だなぁ…。
ライバルであり、恋人でもあるあの人とそっくりの言動。会って間もないのに、何故か懐かしく感じる雰囲気…。
その時だった。
街頭のスピーカーや携帯端末から、けたたましく警報が鳴り響く。ボンバーマンが空に目をやると、視界に広がったのは、紛れも無い隕石の姿だった。
「標的はこの星だミュ!」
「迎撃だ…!」
すぐさま傍らの宇宙船に乗り込もうとするボンバーマン——慌てて、女の子の方に振り返る。
「君は避難して!」
しかし、女の子は逃げようとしなかった。
代わりに、空を睨みつけながらこう言った。
「私はこのために、ここに来たのよ!」
そして、右手を空に向けてかざす。——瞬間、巨大な暗黒球が隕石の前に現れた。
「!!」
ボンバーマンは息を飲んだ。それはまるで「闇のエレメンタル」の力を使っているかのようだった。
「君は一体……」
女の子はボンバーマンの問いには答えず、右手をかざしたまま空を睨み続ける。
やがて隕石と暗黒球がぶつかり合う。
「くっそぉ…早く消えなさいよ!!」
女の子が叫ぶ。
予想外に隕石が大きかった。暗黒球一つでは対処し切れない。
やはり自分が迎撃するしかない。でなければ、女の子の方が先に消耗し切ってしまう…ボンバーマンがそう判断した時だった。
「!?」
空に、もう一つの暗黒球が現れた。
「世の中は広いもんだな…オレと同じ力が使えるガキがいるとはな」
「レグルス!!」
いつの間にか女の子の隣には、ボンバーマンのライバル——そして今や彼氏だが、年季の入ったツンデレ故に決して素直になれない男——レグルスが降り立っていた。
「だが…今は助かる」
言いながらレグルスが、空にかざしていた右手に、左手を添える。
二つの暗黒球が重なる。
見る見る隕石が飲まれ、消失していく。
「ボンバーマン!ボク達は犯人のところへ…!」
ポミュが叫んだ。
「うん!」
ボンバーマンは頷き、すぐさま宇宙船に乗り込んだ。
「レグルス!その子をお願い!!」
最後にそう告げると、ボンバーマン達を乗せた宇宙船は発進した。
隕石が消え、静けさを取り戻した空の下、レグルスは深い溜め息をついた。
「さて…説明してもらおうか」
レグルスが女の子の方へと向き直る。
「お前は何者だ?何故、その力を使える?」
「………」
女の子は答えなかった。そして「もう時間ね」と呟いた。
「助けてくれてありがとう…未来で待ってる」
女の子の言葉に、レグルスは訝しげな顔をする。
「何言って……」
次の瞬間、女の子の姿は忽然と消えた。
*
二日後。
犯罪者グループを見事に壊滅させてからボンバーマンは帰還した。
「本当に突然消えちゃったの?」
「ああ」
ボンバーマンの問いに、レグルスは頷いた。
「消えちゃうなんて…あの子は一体、何者だったのかな」
「言ってたことをそのまま信じるなら…未来から来たって事になるが」
首を傾げるボンバーマンと、顎に手を当てて考えるレグルス——そんな二人の様子を見ながら、ポミュは呆れたように言った。
「二人とも鈍すぎるミュ」
「ポミュ、何か分かるの??」
ボンバーマンが訊ねると、ポミュは溜め息まじりに答えた。
「どう考えても、あれは未来から来た君達の子!」
「!!」
その言葉に、二人はしばし固まった。
「確かに…そう言われると辻褄が合うけど…」
言いながらボンバーマンは考えた。
レグルスとそっくりの言動、「闇のエレメンタル」の力、最初にボンバーマンを「ママ」と呼び間違えた真相——。
「馬鹿馬鹿しい…オレは信じないからな」
言いながらレグルスは頭を抱える。顔がいつになく赤い。
「……そう言えばあの子、名乗らなかったな」
きっと未来の娘の名を知ってはいけなかったのだろう。
もし、本当に自分に娘が生まれたとして、何と名づけるか。
思い出したのは、宇宙を救った日の事。
聖邪の天使との戦い。あの時、最後の一撃となったのは、レグルスから託された「闇のエレメンタル」の力によるものだった。
「この世界を救った力の名前…」
——小さな声で、そっと名前を呼んでみた。きっとこれが、あの子の名前。