For you
レグルスは呆然と立ち尽くしていた。
場所はいつもの建物の屋上。その両手と視線の先には、小さな手提げ型の紙袋——表面には赤色のリボンがあしらわれており、筆記体で綴られたブランドロゴが金色に光っている。
ただずっと、その紙袋を彼は見つめていた。かれこれ小一時間。
「おーい、何やっとるんや?」
聞き覚えのある声に、レグルスがハッと顔を上げる。いつの間にか、目の前にはハウトが立っていた。
「嬢ちゃんからのプレゼントか?」
ハウトが、レグルスの持つ紙袋を指しながら訊ねた。
嬢ちゃんとは勿論レグルスの宿敵であり、爆炎の白き戦士と呼ばれ——そして今や両思いと発覚した相手、ボンバーマンのことである。
レグルスは無言で頷いた。
「そうか、バレンタインだもんな…中身は?」
「チョコレートと…新しい手袋」
「うんうん、流石嬢ちゃんや。心のこもったプレゼントやん」
ハウトがしみじみとそう言った。
しかし、レグルスは無言のまま俯き——「手袋よこすとは…決闘の申し込みか?」と呟いた。
「すぐそういう方向に考えるのやめぇや」
大体それ手袋投げつけられた時やろ、とハウトがツッコむ。
「それでどうするんや?来月のお返し」
「………」
ハウトの言葉にレグルスは唸り声を上げながら、その場にしゃがみ込んだ。
「いや、悩むことないやろ?キャンディでも用意すれば済む話やで?」
「……いいのか?キャンディで」
「あと何か、アクセとか添えて」
「………」
「悩まんでもええやろがい」
頭を抱えて唸り声を上げ続けるレグルスに、ハウトは溜め息をつく。そして、ふとあることに思い至る。
「そうか…初めてなんか、こういうの貰うの」
「………」
何しろこれまで“平凡な日常”とは無縁の生活を送ってきたレグルスである。ボンバーマンが現れて以来、彼女がやたらと“日常”からこういった習慣を持ち込むのだ——レグルスが戸惑うのは当然だった。
「でもな、これから毎年恒例になるんやで。少しずつ慣れていこう?」
言いながらハウトが、レグルスの肩をポンッと叩く。ハウトは、レグルスより遥かに“日常”を知っていた。その中にある幸せも。
「………」
ようやく静かになったレグルスが、ゆっくりと顔を上げた。
「何ならキャンディ一緒に選びに行くか?」
ハウトが提案すると、レグルスは「遠慮しておく」といつもの調子で答えた。